世界最高へ、3つの挑戦|匠の技02

「世界最高へ、3つの挑戦」

1000コマ/秒を実現する為に、様々なメーカーのセンサーを試した。

 

次世代機の開発に当たっては何よりも心臓部であるセンサー選びが重要になってくる。1000コマ/秒に耐え得るセンサーがなければ、基本スペックそのものを見直さなくてはならない。まず、これが1つ目の挑戦であった。後藤ら開発メンバーはセンサーメーカーから製品を取り寄せ、1000コマ/秒の撮影条件で放送業界の求める画像を記録できるかベンチマーク評価を繰り返す。もちろん初代機で起こったノイズ問題の教訓から、新たな開発においてはできるだけノイズが少なく、さらに電気回路的に余分な負荷をかけずに済むセンサーを選択する必要があった。数限りないパラメーター設定値の組み合わせの中からセンサーごとに最適な設定を探し出し、繰り返しチェックと比較を行った。結果、1社のセンサーが条件に近い性能を有していることがわかった。また、そのセンサーを選択するに当たっては、「センサー駆動制御系のパラメーターは変えなくても大丈夫」という、メーカーからの事前の確約を得ていたことも決め手となった。

 

2つ目はマルチ映像出力である。ノーマル、ハイスピード兼用カメラと言っても被写体映像を取り込むセンサーはRGB各一組。マルチ出力を行うには最大1/1000秒という高速で撮影した映像データを、ノーマル用とハイスピード用にそれぞれ出力する別の出力系統を持たせる必要があった。半導体技術の進歩で小型化、高集積化が進んでいるとはいえ出力回路が倍。一方で、だからといって筐体の大きさを極端に大きくはできない。特にハンディカメラとしても使用することを考えると、高機能化と小型化を両立させることが求められた。マザーボードに各機能の回路を如何に効率的に組み合わせるか。これはまさに電気設計畑を長年歩んできた後藤にとって腕の見せ所のひとつでもあった。一方、後藤は出力回路が2系統になるなど信号処理の負担を考え、特に画像を高速で記録するDRAMの容量、処理能力に当初から余裕を持たせた設計を行っていた。このDRAMの処理能力の余裕は記録画質の向上に大きく貢献する。

Hi-MotionIIでは、高性能化と小型化を両立させ、さらにメンテナンス性まで考えられた。

 

まずは映像の滑らかさである。先に述べた通りマルチ出力で使うには常時高速撮影している映像から、ノーマル用とハイスピード用の映像を出力しなくてはならない。ところがそのまま単純に60コマ/秒のノーマル映像として出力した場合、高速撮影特有のシャッター効果により、パラパラした滑らかではない映像になってしまうという問題があった。そこで後藤はDRAMに溜め込まれた複数枚の映像から画像処理により、ノーマル映像用の出力を作り出すという仕掛けを施す。これによって同時に使用される中継用のノーマルカメラとスイッチングしても、遜色のない滑らかな映像を実現した。

 

また同時にこれはフリッカーフリーにも効果を発揮する。フリッカーは主に照明が高速で明滅する過程を高速撮影によって捉えてしまうことから起きる。ところがこの画像処理によって出力された映像は、その明滅抑制にも効果がありフリッカーの低減に大きく貢献したのだ。「これらの演算処理は回路に負担をかけ、場合によっては記録速度の低下などを招きますが、最初からDRAMの処理速度に余裕を持たせたことが成功でしたね」と後藤は言う。こうして3つ目の挑戦は、後藤のこれまでの経験に基づくごく自然な発想によって自ずと成し遂げられたのである。