「目標はロンドン五輪」
「もともとHi-Motionは“ハイビジョンで撮影できるハイスピードカメラ”ということが開発主眼であって、必ずしもスポーツ中継用途を意識して開発されたものではありませんでした。ところがいざ運用を開始すると、スポーツ中継という大きなマーケットがあることがわかってきました」
Hi-Motion初代機が数々のビッグイベントで使用され実績を重ねると同時に、営業担当の元にはユーザーから「こんな機能が追加できないか」「もっとこうしたら使用範囲が広がる」という声が多数集まってきた。そこで営業を含めた開発チームは、2012年ロンドンオリンピックをターゲットにした次世代機の開発を会社に進言。開発チームの数はほぼ変わらず。営業サイドには初代機と同じく既存業務との並行を条件に、次世代機の開発プロジェクトにゴーサインが出される。
次世代機開発をスタートさせるにあたり開発チームは大きく3つのテーマを掲げる。
- 撮影速度1000コマ/秒の実現
- スロー再生映像と同時に常時ノーマルのライブ映像を出力する
マルチ映像出力機能の搭載 - フリッカーフリー機能の搭載
当時、秒間300コマでも3板式カメラとしては世界最高速であったが、ロンドンオリンピックでの採用をねらうにはさらにその上、未到の「1000コマ/秒」を自らに課した。
「マルチ映像出力」は初代機ユーザーから寄せられた要望のうち、かなりの部分を占める機能。初代Hi-Motionはノーマルカメラとしての用途は追求せず、ハイスピードカメラ専用機として開発されたため、録画したハイスピード映像をスロー再生すると、ノーマルのライブ映像の出力が自動的に遮断され、スロー再生映像に切り替わってしまう。こうした制約のためHi-Motionをスポーツ中継に使うとカメラポジションの1箇所はハイスピード撮影専用になってしまい、通常の中継映像のアングルがひとつ減ってしまう。そのため「スロー映像を再生しながら、同時に普通の中継カメラとしても使えなければ採用できない」という声が非常に多かった。実際、スポーツ中継においてカメラの設置場所は限られ、台数が増えればカメラマンなどの人件費がかさみ中継コストがそれだけ増えてしまう。放送局としてはハイスピードのダイナミックな映像は欲しいが、通常の中継カメラをそのために1箇所減らすのは厳しいというのが実情なのだ。
「フリッカーフリー」はハイスピードカメラならではの問題。ナイトゲームや屋内競技で設置・使用されている水銀灯、蛍光灯、LEDなどの照明は、肉眼では常時点灯しているように見えるが、実際は細かな明滅を高速で繰り返している。その肉眼では見えない現象をハイスピード撮影が捉えてしまうため、スロー再生時に画面自体がゆっくり明滅した画になってしまうのだ。
Hi-MotionIIに求められる性能を実現するには、様々な問題をクリアーする必要があった。