「おもろい研究」の先にあるもの|ユーザーズボイス03

今、最先端脳科学研究の現場で

脳情報通信融合研究センター

糸井 誠司・藤巻 則夫 

「おもろい研究」の先にあるもの

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最後に非常に乱暴な質問を、あえて乱暴だと分かりつつもさせてください(笑)。今現在、脳の機能というのはどの程度まで分かっていると言えるんでしょうか?

藤巻

お答えしにくい質問ですね(笑)。
脳に関しては多くのことが知られていますが、分からないこともたくさんあります。たとえば人は多少文字が間違っていても前後の文脈などから内容を推測して理解できます。このように記憶・知識やそれに基づく予測によりさまざまな処理を的確に行うことができます。さらに言葉にかかわる情動や価値判断などの処理も行われます。脳の多数の神経細胞がネットワークを形成し、いろいろな刺激を認識・判断し、必要な思考や行動を行いますが、脳の処理は複雑で、膨大です。分からないことも多いと感じます。脳の処理を理解するためには、多くの研究が必要であると思います。

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だからこそこうした先端の融合研究、あるいは基礎研究が重要で、その積み重ねがあって先ほどいくつか紹介頂いた社会への応用が生まれてくるわけですね。

藤巻

CiNetの柳田センター長の説明にありますが、スーパーコンピュータを動かすには、発電所がひとつ必要なくらいの膨大な電力を消費します。もちろんその計算処理の速さと精度は人間の脳をはるかに上回ります。一方曖昧な処理や不完全な情報から適切な判断ができる、感情や意識をもつなど、人はコンピュータより優れているところがあり、そのような処理を脳はわずか20Wくらいの小さな電力で行っています。その仕組みが分かって、応用できたら大きなイノベーションとなるでしょう。 研究所のロビーに「おもろい研究」という書が飾ってあるのをご覧になったかと思います。これは、脳という複雑な対象の研究について、優れた成果を出してゆこうというCiNetのあり方を示すセンター長の言葉であると思います。

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脳研究はつきつめれば「私たちとは何者であるのか」という、人を知る研究分野ですね。当然奥が深く、まさに「おもろい研究」の宝庫なのだろうと思います。今日はそんな「おもろい研究」が、未来の生活を支える技術の源泉であることを知ることができました。興味深いお話をありがとうございました。