異分野融合による幅広い研究領域
── | 研究のごく一部をお聞きしただけでも脳研究から得られる成果の大きさが想像できますね。絵(文字)の情報から、記憶を参照して、形の特定→音への変換/意味の認識というプロセスを私たちの脳は瞬時にやっている。分かりづらい情報であっても、記憶にある情報や、直前の記憶を利用することにより、妥当な判断が行われるという生物特有の情報処理がコンピュータなど情報通信に応用できたとしたら、それはすごいことですからね。 |
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藤巻 | まさにそうした研究の拠点としてここCiNetがあるわけです。 |
── | 一般的に我々が脳の研究と聞いてイメージするのは生物学とか医学の分野なのですが、このCiNetは電子工学出身の藤巻さんが在籍されていることに象徴されるように、私たちのイメージする脳研究だけでなく、さまざまなバックボーンを持つ方が集い、複合的な先端研究が行われています。簡単にこのCiNetの概要をお話し頂けないでしょうか。 |
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藤巻 | CiNetは大学、研究機関の人的・知的交流を通して脳情報通信融合研究を進める産官学の連携拠点です。NICT、大阪大学、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)を中心に理系・文系の幅広い分野の研究者が集い、さまざまな立場から脳の研究を行っています。 CiNetでは4つの分野の研究が行われています。 <HHS>はHeart to Heart Scienceの頭文字をつなげた名前です。心と心のコミュニケーションを脳機能の研究から探ってゆく研究です。私たちの日常的な会話において「昨日のあれ」といった曖昧な情報でもコミュニケーションが成り立つことがありますね。それは文脈や、共通の経験を基に「昨日のあれ」が何を指しているかを判断するからです。このように人間の脳はたとえ曖昧な情報であったとしても、その意味を正しく理解し円滑なコミュニケーションができます。「認識」「記憶」「意味理解」さらには「情動」「価値判断」などが関わる脳の高次機能を科学的に解明することで、情報ネットワークでのコミュニケーションの質を高めることが期待されます。 |
*7 MRI=レントゲンやCTなどのようにX線を使わず、強い磁力と電波によって体内の状態を断面像として撮影する。また、fMRIとはMRIを用いて血流の変化を通してヒトや動物の脳活動を可視化する技術を指す。
Magnetic Resonance Imagingの略。
*8 PET=ポジドロン断層法とも呼ばれ、陽電子を利用したコンピュータ断層撮影技術。腫瘍組織の糖代謝レベルの上昇を検出することで、がん検診などに用いられることで知られている。
Positron Emission Tomographyの略。
*9 EEG=脳波。脳から生じる電気活動を頭皮上などに置いた電極で捉える。
Electroencephalographyの略。
*10 NIRS=近赤外光を用い、脳活動測定する装置。
Near-infrared spectroscopyの略。