進化を生み出す力|匠の技05

進化を生み出す力

「もっと細かく知りたい」「もっとはっきり見たい」という研究者の飽くなき要望にいかにして応えていくか。製品の進化は一時も歩を止めることはない。フィルムから業務用ビデオ、さらにそれをVHSに置き換えユーザーの利便性を飛躍的に高めた製品群も、この10数年の間に急速なデジタル化が進んでいる。和田が関わる生産・製造分野においてもその影響は大きく、前述のドラムなど映像記録の基幹をメカ機構が担う時代から、センサー素子やデジタルメモリーといった電子部品、ソフトウェアが性能の肝を握る時代へと大きく変わってきた。
 
この流れは一見すると、「メカの重要性が低くなってきた」ようにも見える。だが和田は逆に「だからこそフィルム、ビデオ時代に培ってきたことが大切になってくる」のだと指摘する。
 
「デジタルの場合、極端にいうと箱の中に基板や部品を詰め込み、電気的につながれば物としての体裁は整います。ただ、基板間のワイヤリングがごちゃごちゃしていれば、生産効率は下がるし、後のメンテナンスにも大きく影響します。また部品と筐体の隙間は電波障害の要因にもなりかねません。ですから時に設計に対してはワイヤリングをやめてコネクタ接続にしてほしい、と要望を出すこともあります。こうした提案はメカ的な視点で製品を見るからこそ生まれてくるものだと思います」
 
デジタル化の流れに抗うことはできない。ただそれはフィルムやビデオの時代に培ったノウハウをすべて捨て去ってしまうことではない。時代に合わせて変化しながらも伝承し進化・高度化させるもの。まさにナックの製品の歴史がそうであったように。
 
だから和田は「デジタル化による『ものづくり』が効率性、合理性の側面のみを追求することには強い危機感を覚える」ともいう。アナログ時代に比べ製品の構造は非常に簡素化されてきた。あえて乱暴にいえば、製造は開発が示した図面どおりに組み立ててれば一定の責任は果たせることにもなる。しかしそこにはなんの工夫も、独自性も生まれてこない。イノベーションは他者任せだ。

「たとえば部品の性能評価をするための道具がなかったら、テスト用の回路などの治具を自作するなんてことを当たり前のようにやってきました。先輩方がそうでしたからね。一見すると面倒だし手間です。でも結果、それが製品の性能につながるし、実は作業の効率化にもなる。要は疑って、自分で考えることが大切なのです」

 

また和田はデジタル時代の『ものづくり』のポイントとして「チームワーク」をあげる。

 

「あらゆる商品のライフサイクルが短くなっているし、技術の進化も速い。そうしたなかでは個々の専門性を高めるとともに、チームとして互いに補完しあう関係が重要です。ただそれにしても個々人の問題意識というのが大切で、時に意見をぶつけ合い、そこから新しいものを生み出す。ナックの強さは何よりも『問題解決能力』だと思いますから」

 

それは言い換えれば『ものづくり』へのプライドなのだろうか。いささか誘導尋問的に和田に話を向けると、ほんの少し考えた後、こんな言葉が返ってきた。

 

「そうでなければ仕事は面白くないでしょう」

和田京示(わだ きょうじ)
製造部 製品生産グループ
1979年入社 電子科卒