製造と開発の緊密な連携
入社後、製造部へと配属された和田は開発途中であった製品の生産チームへと加わる。<SVCR-120R>。主に戦闘機に搭載され、着弾の様子や訓練時の映像を収録するために用いられる航空機搭載用VCR(Video Cassette Recorder)だ。
航空機搭載型の映像記録装置は以前よりあったが、その多くはフィルム記録方式。上空で撮影された映像は着陸後に現像処理を施さないと見ることができなかった。<SVCR-120R>の少し前にはUマチック※2ビデオ方式の製品なども出てきていたが、ハードウェアが大きく重いため、航空機内での映像記録には多くの課題を抱えていた。そうしたなか、ナックが開発した<SVCR-120R>は家庭用ビデオとして普及し始めていたVHS方式を採用。外形寸法はW210×H93×L290mm、全体重量もわずか6kgという小型化を実現したものだった。
SVCR-120R
和田がこの生産チームへと加わったのは開発の基本設計がほぼ完了、製品化に向けてのさまざまなテストが行われている段階。航空機搭載となると家庭用VCRとは比べものにならない厳しい使用条件が課せられる。動作温度域ひとつみても家庭用が0℃〜+35℃ほどであるのに対し、<SVCR-120R>に求められたのは−20℃〜+55℃の環境下でも連続運転が行えることという条件だった。
「設計段階でそうした条件への対応策は十分に検討し、クリアできたとして設計図面が製造部へと渡されます。けれどこうした非常に過酷な条件での製品化となると、さらに製造段階でのテストを経て細かな調整が不可欠でした」
新人だった和田は先輩の技術部員や製造部員とともに機構を組み上げてはテスト〜調整〜再テストといった作業を繰り返す。そして製造部門からの提案を開発陣にフィードバックしていった。
たとえば、航空機が高高度域に達すると機内は急速に温度が低下する。するとテープが硬くなり折れやすくなる、メカ機構に負荷がかかり動作が遅くなるなど問題が発生する。そのための対策として製品にはヒーターが搭載されているが対策はそれにとどまらない。メカの動作を安定化するために「テープ送り機構を構成する部品に塗るグリス」にも着目した。低温域でも固化せず、さらに温度が上がっても溶解しづらいようなグリスの配合を見つける必要があったのだ。さらに戦闘機であれば急降下、急上昇、急加速など強烈なGが加わるほか、メカ動作の難敵ともいえる振動も大きい。和田は設計陣とともに環境試験を繰り返しこれらの課題をひとつ一つクリアしていった。
「新人でしたから先輩方について行くのは大変でした。ただ早い段階でこういう経験をしたのは、その後、製造の仕事を続ける上で一つのベースにはなりましたね」と和田はいう。
<SVCR-120R>初号機の発売は1979年。それから5年後、ほぼそのままの製品がスペースシャトル「チャレンジャー」に搭載されることになる。
※2 1969年にソニーが発表した3/4インチのビデオテープを採用したビデオテープレコーダーで、1970年にソニー、松下電器産業、日本ビクターの3社で規格化された。