「プロの感覚を理解する」
一言でレンズと言っても、写真・映像用のそれは一枚のレンズを指すのではない。収差補正などのため、筒体の中にはそれぞれ役割の異なる凸レンズ、凹レンズが組み合わされ一本のレンズを構成している。レンズのスペックを記した仕様表には◯◯群◯◯枚といった表記があるが、群とは複数枚のレンズを張り合わせたもので、たとえば7群8枚と記されていれば、筒体内に7つのレンズ群があり合計8枚のレンズで構成されているということを意味する。
単焦点レンズは比較的構造がシンプルだが、焦点距離が可変するズームレンズは、焦点距離が変わってもピント位置がずれないようにするため、多いものになると20枚以上のレンズによって構成される。ピントを合わせるためのレンズの動きもヘリコイドというネジ式、またカムという筒を動かす仕組みなどがあり、カム式の場合には被写体の距離によって複数のレンズを別々に動かすなど非常に複雑な構造となっている。そのメカニズムを知れば知るほど、そもそもレンズをバラして組み直すこと自体、どれだけの繊細さが必要なのかが分かってくる。
ドイツの名門レンズメーカーであるカール・ツァイス社などは、専用の測定機器を備え、かつドイツ本社での正式な研修を受け、確かな技量を持つエンジニアのいる施設のみを認定サービスセンターとしている。名取らを有するナックは国内でもそのわずかな認定施設のひとつだが、この厳しい認定基準は、レンズを扱うことが、いかに高度な技術であるかを象徴的に示すものといえるだろう。
こうしたベースとなる技術にくわえ、名取らサービスエンジニアには「プロの感覚を理解する力」が求められる。たとえばメンテナンスの依頼品には映像カメラマンから「ピント送りのヘリコイドに違和感がある」という注文が入ることがある。これがピントリングを回してみて明らかに動かないというものなら素人でも不良だと分かる。だがプロからの依頼は「グリス(油)量の少しの減りやネジ、リングの劣化による、ごくわずかな変化だったりする場合もあります。彼らはその微妙な変化を指先や撮影時のわずかな違和感として感じ取る。だから私たちはその違和感を理解しなくてはいけません。リングが回らないからグリスを補充して『これで回ります』ではプロには認めてもらえないのです」と名取はいう。
ナックの制作技術グループはドイツの名門レンズメーカーであるカール・ツァイス社のサービスセンターの認定を有している。 名取自身もドイツ本社で検査手法、検査機器のオペレーションなどの研修を受けたひとり。専用の検査室にはレンズ性能を評価する検査機器のほか、レンズの種類ごとに用意された専用の工具が並ぶ。