「案件ごとに異なるアプローチ」
「案件ごとに毎回要求が異なるので、開発のアプローチはその都度違ってくる」
そう水野が言うように、特注部隊の仕事のゴールへの道筋は毎回異なる。もちろん水野のベースである光学設計がいずれもその中心にあるわけだが、「何を見たいのか、どんな大きさなのか、それを可視光で見たいのか、あるいは赤外線、紫外線を使うのかでレンズをはじめとした光学設計のアプローチはまったく変わってきます」
たとえば水野が入社後初めて責任者として設計・開発に関わった<ステレオアダプタ>。これは16mmフィルムハイスピードカメラのレンズ前に取り付け、1枚のフィルムに異なった視差の絵を結像させ、立体計測を行うもの。そのためには左右にミラーを配置するのだが、正確に距離を測定するには光軸がぶれずに各ミラーの角度が変えられる機構設計が重要になってくる。そのため水野はミラー角度を変えても面倒れが極小となるように調整された機構によって1/100度単位での精度を実現した。
ステレオアダプタの機構
一方、その後に参加した国の研究プロジェクトでは、頭部搭載型の<視覚特性計測装置>の開発を担当。『視線、瞳孔、焦点』という視覚の3大機能を正確に捉えることがミッションだったが、より正確に測定しようとするとどうしてもカメラやレンズ構成が複雑になり、装置自体が大型化してしまうとともに被験者にかかる負担や測定時の手順が煩雑になってしまう。そこで水野はナックが持つ視線計測装置の画像処理技術にくわえ、技術論文から見つけ出した瞳孔に光を入れ、その反射を捉えることで眼の焦点距離を計測する技術を応用し、装置の大幅な軽量化を達成する。
「まず最初は該当する技術を調べることから始まります。最近はネットで検索できるから便利になりましたけど、入社当時は技術論文をひっくり返し、開発のヒントとなる情報や特許の状況を調べたりするのに時間を取られ大変でした」という水野のデスクの後ろには、今でも論文集、技術書などがズラリと並んでいる。