進化する技術、変わる市場環境 変わらないものづくりの姿勢|ユーザーズボイス09

トップメーカーとしての
社会への責任、『ものづくり』への誇り

マブチモーター 株式会社

井坂 洋輔 

進化する技術、変わる市場環境
変わらないものづくりの姿勢

 
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自動車といえば性能、なかでも安全性の部分で非常に厳しい要求があると想像するのですが。

井坂

他の分野との比較できるものではありませんが、プリンターや音響製品に比べて自動車が厳しいとは思いません。もちろん耐用年数などに違いがあるのは間違いなく、10年を超えて乗り続ける自動車の場合は製品寿命が長く設定されているわけですが、製品分野ごとに求められるものは違いますし、それぞれに厳しいものがあると思います。

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電気、水素などエネルギーの多様化、そして自動運転技術など、自動車はまさに今、大きな転換の時期にあると思います。井坂さんのご担当分野であるパワーシートなどは、走行そのものに直接関わるわけではありませんが、少なからずそうした変化の影響を受けるのではないでしょうか。

井坂

自動運転が本格的に実用化となればシートのあり方も当然変わってくるでしょう。最近のニュースでは必ずしもドライバーは前を向いている必要がないというのも目にしました。このようにシートの概念はまったく変わってくると思います。具体的にどうなってくるのかというのは、今は想像の範囲でしかありませんけれど、現状のようにシートの高さ、前後、傾きだけでなく、さまざまな動きを自動化させるということは出てくるでしょう。そうなると当然、組み込まれるモーター数は多くなりますし、モーターに求められる機能も多様化してきます。一方で小型軽量化への要求はさらに進むことは間違いないですね。またモーターの個数が多くなること、それがそのままコスト面に大きく影響してしまうことは問題ですから、より安価に供給するための生産効率などについてもさらに突き詰めなくてなりませんね。

パワーウインドウ用モーター(手前)とパワーシート用モーター(奥)

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さきほど「より良い製品をより安く供給〜」というお話を紹介いただきましたが、まさにそれを突き詰めるということになりますか?

井坂

そうです。ある意味非常にシンプルです。1970年代後半に実際にあった話ですが、今でも有名ブランドであるメーカーから、外部調達している家電製品用のモーターの開発依頼をいただき、創業者が中心となり新たに開発を行いました。そのメーカーの依頼は、性能だけでなくモーターの構造についても指定したものでしたが、創業者は性能を満足するものであればご採用いただけると考え、当社の得意なブラシ付モーターで製品化しました。先方から提示された価格は1個あたり1,000円。当社は開発した製品を適正利益が確保できる100円台で納入したのです。社内では「先方が1,000円を提示しているのだからわざわざ値段を下げる必要はない」という声があったのですが、創業者は「100円台で適正利益を得られるのだからそれで良い」と頑なに譲らなかったそうです。その後現在に至るまで、このメーカーの家電製品用モーターを全て当社に発注いただいています。このモーターは、次々に他の家電メーカーにも採用され、その市場において圧倒的なシェアを確保することになりました。

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マブチモーターのものづくりを象徴する話ですね。
最後にそうしたなかで、井坂さん個人の仕事への想いをお聞きしたいのですが。

井坂

常々仕事に対して思っていることは「仕事が楽しいか、楽しくないかは自分自身で決められる」ということです。その仕事が社会的にどれだけ重要なのか、製品開発においてどれほど鍵を握るものなのか。それは与えられたポジションや内容によって変わってくるものだと思います。一方で、面白いと思うかどうかは自分自身が決められると思うのです。そういう意味で私は自分が感じる面白さというものを大切にしたいと思うし、それが今、何なのかと聞かれれば、製品開発における問題に「さまざまな角度から自分なりの工夫や考え方で向き合う」ということなんです。

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ものづくりという視点から非常に興味深いお話をいただきました。本日はどうもありがとうございました。