性能テストを通して先輩エンジニアの開発思想を学ぶ|ユーザーズボイス09

トップメーカーとしての
社会への責任、『ものづくり』への誇り

マブチモーター 株式会社
中型電装第一事業部
開発本部 第三製品開発部

井坂 洋輔 

インタビュアー: ナックイメージテクノロジー 藤井 慎二 

| USER'S VOICE | USER'S VOICE 09 マブチモーター株式会社

プロフィール

高等専門学校卒。2006年マブチモーターに入社。自動車電装機器関連の製品開発に従事。 

User's Voice第9回目にご登場いただくのは、マブチモーター株式会社で自動車電装機器関連の製品開発に携わる井坂洋輔さん。マブチモーターといえば小型モーターの世界的トップメーカーであり、90年代にいち早く100%海外生産を実現するなど日本を代表するグローバル企業。そこで開発の最先端に関わるエンジニアの「ものづくり」へのこだわり、想いを聞きました。

性能テストを通して
先輩エンジニアの開発思想を学ぶ

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今回のUser's Voiceはマブチモーター株式会社を訪問し、開発本部のエンジニア・井坂洋輔さんにお話をお聞きします。マブチモーターというと小型モーターの世界的トップメーカーであり、日々の暮らしで「その製品に関わっていない人はいない」と言っても過言ではないくらい私たちの身近にあります。ただモーターそのものを直接目にしているわけではないので、その実像を深く知らないという人も多いかもしれません。

井坂

おそらく40代後半以上の男性でしたら水中モーターや玩具・模型用のモーターで遊んだという方は多いでしょう。私自身も幼い頃にミニ四駆に夢中になった世代ですので入社前からマブチモーターの存在は知っていました。一方で音響・映像製品、例えばビデオやカセットデッキ、CD・DVDなどの駆動部分や、現在の主要製品である自動車電装機器関連になるとモーターそのものを目にするわけではありませんので、その存在自体を意識することは少ないでしょうね。 

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自動で機械的に物が動くところにはモーターあり。どれだけ我々の生活に大きく寄与しているか、この記事がそれを少しでも知ってもらえる機会になれば良いなと考えています。まずマブチモーターをより深く知るために井坂さんのお仕事にフォーカスしながら話を進めていきたいと思います。 

井坂

やや荷が重いですが(笑)、どうぞよろしくお願いします。

──

井坂さんがそもそもエンジニアを目指そうとしたきっかけは何だったのでしょうか。

井坂

先ほどミニ四駆に夢中になっていたという話をしましたが、幼い頃からプラモデルや機械が好きな子どもでした。父が自動車整備の仕事をしていたというのも影響しているかもしれません。日頃から「将来何をやりたいかをきちんと考えなさい」と両親から言われていて、中学生の時にも「中学時代に自分のやりたいことをみつけて学校を選びなさい」と言われ、高校進学の際にそれを強く意識しました。その意味では中学から高校へ進む際、高等専門学校を選んだのが技術系の職業を強く意識した最初かもしれません。

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学科は機械系ですか? 

井坂

ええ、機械工学科に進学しました。ただその段階ではまだ目標は漠然とした感じです。親の影響もあってオートバイにはまり、メカをいじるのが面白かったので、なんとなく「自動車関係に進めたらいいな」とは思っていましたが、明確に将来を描いていたわけではありませんでした。実際、卒業後の就職先も金属関係の工場でしたし。 

──

そこからどのような経緯で現在の仕事へとたどり着いたのでしょうか。 

井坂

胸を張って言えることでないのですが、最初に勤めた会社の業務にはあまりやりがいを感じられなかったこともあって1年もせずに退職してしまいました。その後、2006年に縁あってマブチモーターに入社しました。配属は現在と同じ開発部門で、自動車のパワーウインドウ用モーターが最初の担当でした。

──

2006年というと、その少し前くらいからマブチモーターの自動車電装機器関連製品がシェアを大きく拡大していく時期に当たりますね。

井坂

はい。現在のように全社売上の7割強を占めるまでにはなっておらず、ちょうどそれまでの音響・映像機器分野から主力製品が自動車電装機器分野へと移っていった時期です。担当製品のパワーウインドウ用モーターでいうと第3世代にあたる製品の開発が進められていた頃です。

──

担当された仕事では具体的にどんな役割をまかされたのでしょうか。

井坂

入社後は主に性能テストを担当していました。テストといっても開発陣がつくったものをただマニュアルに沿って計測するというのではなく、作業の中で感じたいろいろなアイデアを提案すると認めてもらえることもありました。ある性能を評価するために「これまでのやり方では精度が低い。だからこういう器具でこういうやり方をすべきじゃないか。」と提案して、それが良いと認められれば、入社して間もない自分の意見であってもきちんと評価してもらえたんです。簡単な治具ひとつつくるのでも当然お金がかかるわけですが、こうした個人の意欲、その可能性をきちんとすくい上げてくれる風土がここにはある、ということは入社してすぐに感じました。 

──

一方で、そうした品質テストに関わりながら、井坂さん自身はモーター開発の基礎を習得していったわけですね。 

井坂

今、思い返してみてもこの期間は自分にとって大きかったですね。モーターの基本を学んだし、先輩方の開発や問題解決に対するアプローチの仕方などを、性能テストを通じて間近に見ることができました。ある命題、たとえば軽量化や静音性能の向上というものがあったとして、テストの過程を通じて「コイルの巻き方をこういう風に改良したんだ」とか「この部分の形状を改良することで性能を出そうとしたのか」といった先輩開発者の設計思想に直に触れることができましたから。

──

品質テストを通じて、ある種、先輩設計者の頭の中を覗く面白さがあったわけですね。

井坂

そうですね。まず驚いたのは発想の柔軟さでした。新たに自動車電装機器用モーター開発をしていた時、あるベテラン設計者の方が「電動工具に使用していたモーターを応用してみたら」と提案したことがあったそうです。多くのスタッフは電動工具のモーターが自動車部品に応用できるなんて考えてもいなかった。でもその先輩は「これを使えば技術的な問題も解決でき、大幅に開発期間やコストも削減できる」と考えた。こうした発想の柔軟性こそが当社の強みであり、主力製品を大きくシフトするという、市場ニーズへの迅速な対応を実現した原動力となっているのだと思います。