プロフィール
大谷和也(おおたに・かずや) 秋田県立大学システム科学技術学部機械知能システム学科卒後、2003年ヨネックスに入社。バドミントン製品の品質管理担当などを経て、2008年より開発スタッフに。これまで上級モデル開発を主に担当。自らも高校時代からバドミントンをプレー。現在も社のクラブに籍を置く現役プレーヤーでもある。
大熊伸江(おおくま・のぶえ) 筑波大学大学院人間総合科学研究科修士課程修了後、2012年ヨネックスに入社。入社以来バドミントン開発課に所属し、主に中級者向けラケットの開発を担当。学生時代から研究でハイスピードカメラやモーションキャプチャなどの機器を使用しており、運動時の動作解析などに強みを持つ。
User’s Voice第6回目は日本を代表するスポーツメーカー、ヨネックスの新潟生産本部にお邪魔し、バドミントンラケットの開発についてお話をお聞きしました。トップ選手が数多く使用し、世界でも圧倒的なシェアを誇る同社のラケット。
ナノレベルの素材研究から、ミクロ単位の試行錯誤を繰り返し性能を引き出す精緻な構造設計。製造における徹底した品質管理など、そこには「日本のものづくり」の誇りがありました。
研究から開発までを長岡に集約
新潟から世界のバドミントン市場へ
── | 取材を前にヨネックスさんのWebサイトを拝見していて、技術紹介のところに<JAPANESE QUALITY>という言葉が大きく記されていることに気づきました。まさにこの言葉は「日本のものづくり」に誇りを持ち、日本の技術力、品質に高いこだわりを持たれている、ひとつの象徴ではないでしょうか。今回はヨネックスさんの「ものづくりへのこだわり」、その一端をご紹介できればと考えています。 まずお話の入り口として、お二人それぞれがなぜヨネックスに入られたのか、ということから始めたいと思うのですが。 |
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大谷 | 私は大学時代、基本的には機械関係、設計や製造について学びました。就職先はいわゆるメーカーが王道になりますが、その中でなぜスポーツ分野、なぜヨネックスかというと、答えはわりと単純で、私自身が高校時代からバドミントンをやっていて、ヨネックス製品のユーザーだったからです。 長年使い続けていて愛着があり、その良さを感じていた。何よりプレーヤーとして、世界の多くの人が使っている、しかもトッププレーヤーが使っているラケットが日本製であるというのは誇らしかったですし、いつしか自分自身がそこに関わってみたいと思うようになった。それが一番の理由です。 |
大熊 | 私は小さい頃からスポーツが好きで、大学・大学院でスポーツ科学を専攻しました。当然スポーツに関わる研究開発をしたいという思いがあったので就職活動では色々なスポーツ関係の企業を見てきました。そのなかでヨネックスを志望したもっとも大きな理由は、冒頭で話に出た「日本のものづくり」に大きく関連しています。 |
ヨネックスWEBサイトから
バドミントン製品に関わる最先端技術を紹介するページ
http://www.yonex.co.jp/badminton/j-quality/
── | 開発と製造の距離が近いからこそ柔軟な試行錯誤ができる、ということでしょうか。 |
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大熊 | そうです。たとえば「こういう形状にしたらどうなるだろう」というアイデアがあったとして、製造部門がすぐ横にいますから、試作に至るスピードがすごく早い。部品などを外注することがないですから。また製造と一緒だからこそいろんなノウハウがそこにはあるだろうし、すごく柔軟な研究開発ができるのでは、と感じたんです。実際、就職してみて、研究開発と製造の一体化にヨネックスの強みを感じます。良い意味で非常にコンパクトな体制になっていて、開発、試作、評価、改良というサイクルをスピーディーに回せていると思います。 |
── | スポーツ用品に限らずあらゆる製品で市場ニーズの変化に対応したスピードが要求される時代ですからね。 |
大谷 | そうです。その意味ではこの長岡に開発から生産までが集中していることが、製品開発のスピード、製品のクオリティーという面につながっている。これはヨネックスの特徴であり、大きな強みの一つかもしれません。 |
── | お二人は入社以来、一貫してバドミントン製品に関わっているのでしょうか。 |
大谷 | 私は最初の配属は品質管理部門。そこで約4年間ラケットの品質管理を担当し、5年目に現在のバドミントン開発課に移りました。開発課では主にトップ選手が使用する上級モデルの開発に関わってきまして、最近では特定のモデルだけでなく開発全体をマネジメントする立場を担っています。 |
大熊 | 私は入社以来このバドミントン開発課に所属しており、新製品分野では主に中級者層向けの製品開発を担当しています。 |
── | お二人の担当であるバドミントンラケットの開発ですが、具体的にどのようなお仕事になるのでしょう。 |
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大谷 | 簡単に言ってしまうと、フレームやシャフトの形状設計や構造設計を担うのが私たちの役目です。一方で開発にはデザイン部門が別にあって、こちらは塗装やデザインパターンを担当しています。 |
── | つまりお二人は色や配色以外の、ラケットの機能、性能、品質に関わる部分をご担当されているわけですね。 |
大谷 | そうですね。私たちの研究開発には大きく2つの側面があって、ひとつは基礎研究。もうひとつが具体的な製品をターゲットにした開発です。基礎研究はまさにベーシックな研究で、ラケットの操作性や軽量化などを図るため、素材の基礎物性や形状変化による強度や性能に与える影響を調べる。一方で製品開発は毎期定められたテーマに基づいて具体的に使用する素材の構成、設計や構造などを検討し、実際の製造にまで結びつけていきます。 |
── | 素材であれば化学的な、構造などでは物理的な知識が必要ですよね。それぞれ開発スタッフは専門分野に分かれて担当があるという感じなのですか。 |
大熊 | もちろんそれぞれの得意分野はありますが、特に素材に特化して、というような担当分けはありません。私で言えば主に中級者向けのラケットを担当していて、そのなかで素材から構造や設計まで全体を見ていきます。たとえば初級〜中級者ゾーンの製品は上級者に比べてラケットの柔らかさなどが求められます。スイングスピードが上級者程でないため、柔らかさを出してストリングを撓ませその復元力で飛ばす、トランポリン効果のようなイメージですかね。使いやすい柔らかさを保ちながら性能面を落とさない。そのバランスをどのようにとっていくか、そのためには素材から構造設計に至るまで総合的なアプローチが必要です。 |
大谷 | もちろん素材や物性などの個別の研究が重要なのは間違いありません。ただラケット開発においては、一方で製品全体を見据えた視点が重要なんです。一本のラケットには最先端のテクノロジーが複合的に組み合わされていますから。 |
── | なるほど、つまり一本のラケットに詰まったさまざまなテクノロジーを製造まで含めて、ここ長岡に集約して一気通貫でやっているのがヨネックスさんの製品開発の大きな特徴なわけですね。 |