「どこにも無い、だから自分たちで創る」
グローバルな水平分業――モノづくりのトレンドが合理化、効率化に傾斜するなかにあって、ナックの映像計測機器用のレンズ製造は、それとは一線を画し、独自のスタンドポイントに立つ。
「もちろん外から買ってきたレンズがそのまま使えれば効率的で簡単」
製造部部品工作グループでレンズ製造に携わるベテラン技術者の鈴木文夫は、そう前置きした上で、こう言葉を続ける。
「たとえば当社独自製品の視線計測装置アイマークレコーダ(EMR)。現行のEMR-9で使用するレンズで一番小さい物は直径3ミリという極小で、しかも計測精度を高めるためにミクロンレベルの加工精度を設計部門から要求されます。既製品にはそんなレンズはないし、それだけの精度を外部に委ねたら結果、コストもかかる。ベストの製品がどこにも無い、ならば自分たちで創るしかない。そうやって我々の製品は進化してきました」
機械化、自動化が進んでいく中でも、細部においては匠の技が頼りだ。
いかにも技術者=職人という感じの鈴木は、自分たちの技術力の高さを声高に語ることはない。だがその言葉の端々に<自らのモノづくりへの誇り>を滲ませる。
光学機器における情報(画)の入り口であるレンズは、言うまでもなく画像の優劣に影響を与える部品だ。デジタル化によってセンサーがより高解像度になればなるほど、画像品質においてはアナログであるレンズ性能が大きく問われる。また、その製造工程は機械化、自動化が進んでいるとはいえ、細部において属人的な経験値や勘、いわゆる技術者の<匠の力>に負う部分も大きい。なかでも鈴木の言葉にあるように<ミクロンレベル>という高い精度を要求されるナックの製品設計においてはなおさらだ。しかし、そんな厳しい精度要求に対して鈴木は「それがさらに自分自身を高めて行く」とさらりと言ってのける。