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ナックのハイスピードカメラは、大変多くの研究者のみなさまに採用いただいています。今回はアーク溶接の研究を行なっている大阪大学の荻野陽輔先生にハイスピードカメラを使った研究のお話をうかがいました。
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大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻
荻野陽輔 准教授 プロフィール2014年3月 大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻 博士後期課程修了
2015年11月 大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻 助教
2021年10月 大阪大学大学院工学研究科 テリアル生産科学専攻 准教授
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――先生は大阪大学に学生からずっといらっしゃって准教授になられたとのことですが、ハイスピードカメラと出会ったのはいつ頃だったのでしょうか。
荻野先生:ハイスピードカメラを使い始めたのは2013〜14年くらい。ドクターを出るか出ないかくらいのあたりからです。ナックのハイスピードカメラはずっと研究室にあったのですが、学生の時は遊びで使う程度でした。学生が終わるくらいから、時間スケール的にも短い現象を見ていこうと思い、ハイスピードカメラを研究でも使うようになりました。
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――先生は普段どのような研究をしていますか?
荻野先生:アーク溶接がターゲットです。研究テーマのメインは数値シミュレーション。学生時代から同じテーマです。実験的な研究をしたかったのですが、その時期の流行りもあって数値シミュレーションをやることになり、そこから13〜4年続けています。2014年に博士の学位を取り、大学のスタッフになったのですが、いろいろなところで評価してもらえるようになったその頃から、実験結果と見比べながらシミュレーションをしていくようになりました。現在では、数値シミュレーションと組み合わせてアーク溶接の現象を解明し、わかってきたら今度は溶接の結果の予測やコントロールをするための研究をしています。
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――一般産業ではどのように応用されているのですか?
荻野先生:アーク溶接を使う産業ではどこでも応用できます。溶接現象を解明することは、プロセスパラメータや電流、ガスやワイヤーの送りなど、どのようにコントロールすると現象がどう変わるか、現象をコントロールした溶接プロセスをどう作り上げるか、といったプロセスそのものを作り上げるところに繋がります。そして、現象と結果のつながりがわかってきたら、この結果にするためにはどういう溶接プロセス条件にしたらよいか、プロセスのデザインも行なえるようになっていきます。このように、品質を予測してコントロールしていくところに繋げていければと思っています。
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――先生の研究ではハイスピードカメラでどのような現象を観察しているのでしょうか。
荻野先生:現段階の研究では、アーク溶接中の溶融金属、特にワイヤーがどう溶けて動いて、どう溶融池に落ちていくかを観察しています。現象をしっかり捉えられると、数値シミュレーションにも絡められます。数値シミュレーションとうまく融合させて実験結果を見ながら、シミュレーションモデルの質を高めています。今のところは溶融した金属がどういう動きをしているかに焦点を当てていますが、今後はプラズマ側の動きをもう少し定量評価していくと、よりしっかり現象が解明できてくるかなと考えています。
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――アーク溶接をハイスピードカメラで可視化するにあたって、何か工夫されていることはありますか?
荻野先生:そんなに特殊なことはしていません。ただ、アーク溶接は非常に眩しい現象なので、溶融金属を撮る場合は、フィルタリングを適切に行なったり、外から光をうまく差し込んであげたりして、見やすくしてあげる工夫をしています。光の性質をしっかり把握しながら撮影することが、定量的な評価につながります。
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――撮影速度はだいたいどれくらいで撮られていますか?
荻野先生:10,000fpsくらいが多いです。それくらいの撮影速度で撮れば、ワイヤーの溶ける様子、ちぎれる様子もよく見えます。
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――荻野先生には現在、MEMRECAM HX-7SとMEMRECAM Q1vをお使いいただいています。それぞれ、使ってみていかがでしょうか。
荻野先生:HX-7Sは、時間・空間的に細かく現象を捉えられると感じています。研究では撮影範囲が数mm2くらいで、プラズマ全体でも1cm2以下くらいの空間を撮影しています。時間スケールで言うとミリ秒では遅い、1ミリ秒から0.1ミリ秒オーダーくらいの映像でしっかり撮ることができると、非常にいろいろなものが見えてきます。それくらいの撮影条件や解像感で映像が撮れるハイスピードカメラだと感じています。
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荻野先生:Q1vは、サイズがより小さいので取り回しがよいです。いろいろなところに持って行き、撮りたいところから撮影しています。ほかのモデルと比べて撮影速度や解像度は劣るかもしれませんが、それでも十分に現象を捉えることができています。撮りたいところからパッと撮れるので、撮りたい映像を非常に簡単に撮影できます。また溶接の撮影では、あまり近づけすぎるとスパッタ(火の粉)が飛んできますので、機器類の扱いには気を遣いますが、Q1vは取り回しがしやすいので、場所の制約を受けにくく、設置が簡単です。
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――2台ともモノクロモデルをお使いいただいています。
荻野先生:今はそうですね。プラズマの発光が可視領域だと強いので、白黒で少し可視光から外れた波長を用いて撮ることが多いです。
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――ハイスピードカメラでの可視化を通じて、分かったことや発見などはありましたか?
荻野先生:ハイスピードカメラで撮る、というところで言うと、シンプルに自分の目では追えないスピード感の現象が見えるというのが大きな発見に繋がっています。例えば、溶けたワイヤーが動いていく時間スケールはコンマ1ミリ秒からミリ秒オーダー。どんな風に変化するか、諸々のプロセス条件に対してどのように変化するのかは、実際に撮影してみないとわかりません。我々は、なぜそうなるのかというところを評価、ディスカッションしていくところが生業ですが、そのベースにあるのは、まさに「百聞は一見にしかず」。まずは実際に変化をしている様子を計測観察し、その事実を物理で説明していくのが、一番大事なことだと考えています。
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――研究室にお邪魔すると、よく学生さんもハイスピードカメラを使われています。
荻野先生:一緒に研究をしている学生にも、「まずは自分の目で現象を見ること」が大前提だと話をしていて、教育でも活用しています。
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――授業でもハイスピードカメラを使っているのですか?
荻野先生:映像はよく使っています。スマートフォンだと全然見えないけれど、光がどうやって出ているのか、どのくらいの時空間スケール感で物事が起こっているのかをちゃんと把握した上でそれに適した機器を使っていけば、眩しい光の中も見える、という話をイントロダクションの授業でしています。
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――先生は長くナックとお付き合いいただいていますが、接していてどのようなところがよいと感じますか?
荻野先生:前から使っていて慣れている、というのもありますが、ハード的にもソフト的にも取り回しがよく、学生もパッと教えたら次の日には使える、という意味で非常にやりやすくやっています。
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――以前に工場にもお越しいただき、製造現場もご覧いただきましたが、いかがでしたか?
荻野先生:これだけ人の手がかかって丹精込めて作られているなと、いいものを使わせてもらっているなと感じました。
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――MEMRECAM GOを実際にご覧いただきましたが、いかがでしたか?
荻野先生:サイズがすごく小さくて取り回しもよさそうで、無線やタブレットで簡単に使える、お手軽なハイスピードカメラです。これだったらいろんなところに持っていって、ちょっと撮ろうか、ということができますね。普通のハイスピードカメラでは、「ちょっと撮ろうか」というハードルが高い。見えていなかったものをとりあえず見てみる、「百聞は一見にしかず」のハードルがぐっと下がる気がします。我々は研究者だから頑張って設置などをしますが、敷居が高くなく、ポンと日常の現象を撮ってみるか、だけでもできそうなので、非常にワクワクするものです。
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――荻野先生、ありがとうございました。
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